いつかのY氏

事実に基づく酒の席での取材?によるフィクションです。
Y氏:今をときめくSファームの初代
青年:騎手時代のO氏




青年は園田競馬場で騎手をしていた。
同厩舎には花形騎手のF騎手がいるため青年が乗るのは障害馬か、癖馬が多かった。
それは厩舎に所属させてもらうときから承知の事であった。
近々独立し自分で馬をつれて稼業を始めるところまで来ていた。

レースに乗る事よりも攻め馬のほうが主な仕事であった。
ある朝、調教師が攻め馬からあがってきた青年に聞いた。
「どうやO、足元は。」
「はい、相変わらずです。」
「そうか。走らんといかん馬なんやけどなー。」
「先生、この馬やっぱり・・・。」
「あほ、お前はまだ言うか。足が長い短い?そんな事聞いた事無いわ。この馬はな、Yさんが積んでくれた
良血馬やで。めったなこと言うと承知せんぞ。!」

その馬はY氏が持つデビュー前の牝馬で良血であるため繁殖にするのが目的であるが、
縁あって青年の所属する厩舎に入厩しその走りを楽しみにされていたものである。
ところが主戦騎手であるF氏はその馬の調教をしなくなり青年に仕上げる様命じられたのであるが・・・
何度かまたがって青年はある事に気づいた。
「この馬は後ろ足が右と左、長さが違う。」
先生は「そんな馬鹿な事があるか。」という。
青年もそんな馬は初めてだった。

何日かたったある朝、「おいO。その馬Yさんに返してこい。夕べ電話して繁殖にあげてもらうように
頼んどいた。」
「はい。」
馬と一緒に車に乗り込んで、Y氏の牧場に向かった。
Y氏がいた。
「だめだったか。」
「・・・ええ。・・・この馬・・・」
「なんだ?兄さん。」
「いえ。」
「兄さん。どう思う。」
「はい、この馬、足が、足の長さが違うと思います。」
「誰が言った。」
「いえ、先生はそんなこと言ってません。僕が乗ってみて感じただけです。」
「そうか。」
「・・・」
「この馬は血統が好きだから、繁殖にと思っていた。だから、レースには使わんで良い。」
「・・・」
「私はこの牧場をもっと大きくしようと考えている。」
「・・・」
「この馬は、兄さんが言うとおり足の長さが左右違う。」
「!!!」
「知っているのは私だけだ。言ったのは兄さんだけだ。」
「はい。」
「兄さんこのままここに残って私の牧場で仕事しないか。」
「いえ、ぼくも近々自分でやろうと思ってますし。」
「そうか。」

青年はそのときの事をこう振り返る。
「めちゃくちゃ嬉しかった。」
自分だけかと思ったら、日本一に成ろうかと言う大きな牧場の親父さんがわかっていてくれた事が。



おわり
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